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仙台高等裁判所 昭和38年(ラ)70号 決定 1963年10月07日

抗告人 大矢幸博

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

仮執行宣言付仮処分取消判決にもとづき、仮処分執行を取消した場合は、たとえその後において仮処分債権者が仮執行宣言付仮処分取消の判決に対し控訴を申立て、該判決にもとづく執行停止の決定を得ても、これによつては仮処分執行取消前の状態を回復することはできない。けだし、仮執行宣言付仮処分取消の判決は、仮処分を取消す形成判決であつて、仮執行の宣言により確定したと同一の効力を生ずるから、これにもとづきさきになした仮処分執行を取消した場合には、仮処分命令及びこれにもとづく執行はすべてなくなり、控訴にもとづく執行停止によつて仮処分命令が復活する余地は全くないからである。

本件申請は、抗告人において、青森簡易裁判所が抗告人と株式会社八代金物店間の同庁昭和三八年(サ)第二二二号仮処分異議事件につき、同年八月三日言渡した仮執行宣言付仮処分取消判決に対し青森地方裁判所に控訴を申立てるとともに、同月五日同裁判所同年(モ)第二五一号をもつて、右仮執行宣言付仮処分取消判決の執行を一時停止する旨の決定を得たが、これより先右仮執行宣言付仮処分取消判決にもとづき執行吏は本件土地を執行吏の保管に付した仮処分(青森簡易裁判所昭和三八年(ト)第一七号)執行を取消し、本件土地を債務者に引渡したので、原状を回復するため、右仮執行宣言付仮処分取消判決にもとづく執行の取消を求めるというものであつて、その許されないことはすでに説示したとおりである。

また、本件記録によると、前記仮執行宣言付仮処分取消判決をもつて取消した仮処分には、「被申請人たる株式会社八代金物店が本件土地内に立入り、建築工事をしてはならない。すでに進めている建築工事は中止しなければならず、これを続行してはならない。」旨の不作為を命ずる部分があることが看取される。かような狭義の執行を必要としない仮処分の部分については、仮処分命令が債務者に送達された場合に広義の執行があつたものと解すべきであるから、その取消もこれに準じ、仮執行宣言付仮処分判決が債務者に送達された場合に広義の執行が取消されたものと解すべく、抗告人が得た前記執行停止命令にさきだち右仮処分取消判決が債務者である株式会社八代金物店に送達されたことは記録上明らかであるから、右の部分についても仮処分は取消され、もはや回復の途はないものといわなければならない。

抗告人は、仮執行宣言付仮処分取消判決が執行された後に原状の回復が認められないと、該判決に対し控訴を許したことが無意味に帰することを挙げ、取消された仮処分を維持することができない結果を来すことは所論のとおりであるが、前示の次第でやむを得ないものとして右の結果を承認しなければならないのである。論旨引用の大審院判例は本件に適切なものではない。

以上と同旨の理由により本件申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて、民事訴訟法第四一四条・第三八四条・第九五条・第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 鳥羽久五郎 羽染徳次 須藤貢)

別紙

抗告の趣旨

「原決定を取消す。青森簡易裁判所昭和三八年(サ)第二二二号仮処分異議事件の仮執行宣言付判決の執行は本案判決をなすに至るまで取消す。」旨の裁判を求める。

抗告の理由

抗告人は、株式会社八代金物店を被申請人として青森簡易裁判所に対し仮処分を申請し(同庁昭和三八年(ト)第一七号)、「本件土地についての被申請人の占有を解き執行吏に保管させる。被申請人の工事の続行を禁止する。」旨の仮処分決定を得たところ、被申請人は右仮処分に異議を申立て(同庁昭和三八年(サ)第二二二号)、同裁判所は右仮処分を取消し、かつ該判決に仮執行の宣言を付した。

抗告人は、右仮処分取消の判決に対し控訴を申立て、仮執行宣言付仮処分取消判決の執行停止の決定を得た(青森地方裁判所昭和三八年(モ)第二五一号)。

しかるに、執行吏は右決定にさきだち、前記本件土地についての執行吏保管の仮処分執行を取消した。そこで抗告人は従前の状態を回復するため、前記仮執行宣言付仮処分取消判決の執行の取消を求めるため本件申立に及んだところ、原決定はいつたん執行吏がその保管を解き目的物件を債務者に引渡した以上、仮執行宣言付仮処分取消判決の執行停止の決定があつても、原状に復することができないとの理由で、右申立を却下した。

一般に仮執行宣言付仮処分取消の判決にもとづき、取消の執行が行われ、実体上の関係が回復不能の状態に変動した場合には、仮執行宣言付判決の執行停止の決定によつて原状を回復することが不可能であるから、仮執行宣言付仮処分取消判決の執行取消の申立は妥当性を欠くであらうけれども、本件のごとく、土地を執行吏の保管に付するとか、その保管を解くということは、ほとんど観念的なものであり、執行吏の保管を解くことによつて土地の状況に変化を生ずるものでもなく(その保管または占有は執行法上のもので実体上のものではない。)、保管を解いた後においても旧に復することが極めて容易であり、この程度の原状回復は当然に執行取消の効果のうちに包含されるものと解されるのである。もしそうでないとすると、仮執行宣言付仮処分取消判決の執行取消ということは全く存在理由がないこととなるし、また同判決に対し控訴を許すことも無意味に帰する不合理がある。(大審院大正一四年五月二〇日決定民集四巻三一一頁参照)

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